限られたリソースでより多くの翻訳をこなせるようになる重要なチャンス
2024年1月30日
読了目安時間:6分
最近、組織内でローカリゼーションサポートの需要が急増していると感じるのは、あなただけではありません。RWSの業界全体を対象にした調査によると、企業の翻訳部門における翻訳作業の需要がこの12か月間で増大し、48%がプロジェクトファイル数の増加、37%が作業を依頼してくる部門数の増加、同じく37%がプロジェクトあたりのワード数の増加を経験しています。
しかし、増加するローカリゼーション作業量やますます多様化して拡大するローカリゼーションプロジェクトへの対応は、運営上の悪夢になりかねません。これまでと同じリソースで、より多くの翻訳をこなし、しかも求められる品質を維持しなければならないのです。
このバランスはなかなか取れるものではありません。とは言え、ローカライズ済みコンテンツをより効率的に提供できるようになれば、多大なメリットが組織にもたらされる可能性があります。需要を満たすだけでなく、これまで以上に魅力的な方法でより幅広い層にアピールし、つながることもできます。多くの研究で示されているように、人々は自身の言語で提供されるコンテンツに対して、より魅力を感じるものなのです。
幸い、ローカリゼーション需要の急増とともに、非常に強力なテクノロジーやデジタル機能が新たに登場し、ローカリゼーションプロセスの加速と根本からの変革も進んでいます。
翻訳のすべてを可能にするために前進しようとしている組織なら、次の3つのチャンスを見落とすことはできません。
1)生成AIと大規模言語モデル(LLM)
ニューラル機械翻訳(NMT)に翻訳業界が初めて取り組んだのはそれほど昔のことではありませんが、ニューラル機械翻訳は瞬く間に業界で最も重要な言語処理AIアプリケーションとなりました。今では、新たなテクノロジーである生成AI、具体的に言うと大規模言語モデル(LLM)が急速に普及しており、その影響について議論を活性化させるとともに、まったく新しい可能性の世界を生み出しています。
LLMは、もともと翻訳用に設計されたものではありませんが、その流暢さと適応性の高さから、翻訳にも活用できる可能性を秘めています。そのため、組織はLLMを翻訳プロセスに統合する方法を積極的に検討しています。たとえば、ハルシネーションやバイアスといったLLMの弱点を回避しつつ長所を活用すれば、プロの翻訳者をサポートするツールとして使用できます。翻訳メモリ(TM)、用語集、機械翻訳(MT)とLLMを組み合わせて使用すると、ミスやバイアスを発生させることなく翻訳品質を高めることができるのです。
Tradosでは、このアプローチを通じ、当社の生成翻訳機能からLLMに、MTで翻訳された分節の再翻訳や未翻訳の分節の翻訳を行うよう指示を出すことができます。このプロセスでは、承認済みの用語集を組み込み、指定されたスタイルや長さ制限、性別などのプロンプトに従うことができます。
AIがすでに使用または検討されている事例は他にもあります。そこでは、LLMが次のように機能しています。
- 以前に完了したプロジェクトに関するデータを使用し、提示されたファイルとの類似性に基づいて、たとえば、推奨されるワークフロー、プロジェクトテンプレートや設定、そのプロジェクトに適した人材を返します。
- 言語レビュー担当者となり、翻訳分節に含まれる問題を特定し、シンプルな品質スコアと簡単な説明を返します。
- 使用されている翻訳テクノロジーのヘルプまたはサポート機能として、ユーザーが自然言語で質問すると、既存のヘルプ資料やサポート資料に基づいて回答を返します。
これらの事例は、翻訳テクノロジーでAI機能を適切に使用すると、リンギストの翻訳タスクのスピードアップやプロジェクト管理の反復的な業務の効率化が可能になることを示しています。しかし、NMTと同様に、AIは人間の翻訳者やプロジェクトマネージャーに代わるものではないと認識することが重要です。AIは、人間のワークフローに組み込まれ、人間の専門知識を向上させるために使用されれば、最も強力なツールとなり、専門家がルーチン化したローカリゼーション作業に費やす時間を短縮するのに役立ちます。その結果、これまでと同じリソースでより多くの翻訳済みコンテンツを作成でき、自動化できるようになったタスクに割り当てられている資金を別の目的に割り当てて活用することもできます。
2)クラウドファーストの作業
クラウドは、ローカリゼーション業界を根本から変革しています。強力な翻訳テクノロジーの利用が一般になり、作業の管理方法や遂行方法を変えています。クラウドベースの翻訳プラットフォームは、チームにとって、最先端のローカリゼーションテクノロジー機能の利用、シームレスな連携、サプライチェーン内の他者とのリクエストやドキュメントの共有を可能にする共通の場所となっています。
業界でオンプレミス/デスクトップからクラウドへの移行が進むにつれ、クラウドファーストの作業(クラウドのみとは異なります)が根付いてきました。特に浸透しているのが、クラウドに保存され一元管理されている言語資産やクラウド管理プロセスに容易にアクセスできる環境を存分に活用している職務です。最も一般的な組み合わせは、クラウドベースの翻訳管理機能とデスクトップベースの翻訳支援ソフトウェアです。
クラウドファーストの作業への移行も、組織に新たなチャンスをもたらしています。クラウドソリューションは導入やアクセスが容易なうえ、さまざまなユーザーに対応できるようクラウドベースの編集ツールの適応性が高まり、機械翻訳(MT)の品質が大幅に改善されたことから、最近ではプロの翻訳者ではなく専門知識を持つエキスパート(SME)によるクラウドベースの翻訳レビューが注目されるようになっています。これが最もよく見られるのが、高い専門知識が求められ、用語の使い方が特殊な分野です。
多くの組織がMTを利用するようになり、プロの翻訳者の直接的な支援なしに、必要に応じてSMEがMTの翻訳を編集しています。この「ポストエディターとしてのSME」モデルの背景にあるのは、ポストエディットよりも用語のレビューを重視すれば翻訳品質を十分に確保できるという考え方です。LLMの流暢さを考えると、この傾向は今後加速する可能性があります。
企業の翻訳チームにとって、クラウドファーストの作業は生産性の向上に役立ちます。特に、SMEが専門知識をできるだけ簡単に提供できるようにすれば、その効果が高まります。クラウドローカリゼーションツールを活用すると、社内でより多くの作業をこなすことができ、企業は外部のローカリゼーションサポートに費やしたコストから最大の価値を得られるのです。
3)言語オペレーション
組織は、ローカリゼーションの作業量、スピード、要件の多様さに苦慮しており、その多くが、これまでの場当たり的なアプローチでは対応できないと認識しています。業界では、「言語オペレーション」(LangOps)という用語を耳にすることが多くなっています。これは、ローカリゼーションを場当たり的な活動から戦略的な機能へと移行させ、自然に統合されるビジネスプロセスとして組織全体に一貫するよう組織が取るべきアプローチを意味します。
ここでは重要なのは「戦略」です。LangOpsのためにビジネスを再編成すると、LangOpsが経営幹部レベルの問題になり、トップダウンで方向性が示されることになります。LangOpsは、組織の分断を打破し、ローカリゼーションを部門の枠を越えた拡張性のあるものにすることを目的としています。
テクノロジー、特にAIは、拡張性に優れたエンドツーエンドのプロセスをサポートし、従来の手動プロセスを自動化して、組織の境界を越えて一貫したローカリゼーションを支援する能力を備えているため、LangOpsで重要な役割を果たします。LangOpsでは一般的にAIファーストのアプローチを採用しますが、品質保証とガバナンスにおいては「人間の介入」が重要なことも認識しています。
組織は、AIや前述のクラウドファーストの作業のほか、翻訳エコシステムの利用においてもリーダーシップを発揮する必要があります。このため、LangOpsを実現する組織として、ワークフローがスムーズに進行するように要素やシステムがシームレスに統合されたテクノロジーエコシステムを構築することがますます重視されています。単一のソリューションですべてのニーズを満たすことはできません。この認識から、統合機能を備えたソリューションの選択が重要になっています。選択時には、APIが利用可能か、標準設定のコネクタがあるか、プラットフォームの統合や拡張機能を構築する活発な開発者コミュニティが存在するかどうかが評価されます。
企業の翻訳チームにとって、組織がローカリゼーションにおいてより戦略的なアプローチを追求することは朗報です。(社内またはパートナーの)戦略アドバイザーとしてLangOps構想を立ち上げ、組織に多大な価値をもたらす機会が与えられるためです。また、定義された一貫性のある反復可能な方法でローカリゼーション手法をワークフローに組み込むことで、LangOpsは、より多くの人々がより多くの翻訳を一貫性を高めながらこなせるようにします。そのため、最初から多様性を備えたコンテンツを作成することができます。
適切なテクノロジーで翻訳のすべてを可能に
ローカリゼーションは、重要度も難度もかつてないほど高まっています。組織は、短時間でより多くの翻訳を、多くの場合、これまでと同じリソースでこなす必要があります。これは、適切なテクノロジーがなければ実現できません。裏を返せば、適切なツールとサポートさえあれば、組織を前進させ、新たなトレンドがもたらすチャンスに対応できるようになるということです。
翻訳テクノロジーが困難をチャンスに変える仕組みについてご興味がある方は、当社担当者までお問い合わせください。
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